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<美里町>勢井阿蘇神社奉納芝居と十人重箱弁当

続けていくことの楽しさ。
勢井阿蘇神社奉納芝居見物と十人重箱弁当

 

ゲスト探索人:井澤るり子 from 熊本県下益城郡美里町
合同会社フットパス研究所 代表

毎年4月の初旬、下益城郡美里町の勢井(ぜい)阿蘇神社では、五穀豊穣と家内安全を願って芝居を奉納します。およそ500年も続いているといわれるこの大祭では、旅芝居の一座を招いて芝居や踊りを楽しみます。

その祭りに欠かせないのが「十人重箱弁当」です。

重箱の構造自体が優れもの

小割という一人分が入る小ぶりの重箱が十人分。
おにぎりなどのご飯類、煮しめなどのおかず類、酒の肴が入る深さの違う重箱がセットになっています。十人重箱といっても、十五、六人分はゆうに入っています。
重箱は木で作った上下に区切られたケースに入っており、上が小割り、下が重箱。下からご飯、おかず、肴入れ。
ピッタリ納まっているので入れるのは楽ですが、出すのは至難の技!傾ければ、一気に滑り出て重箱がひっくり返ってしまうかもしれません。

それを防ぐ仕組みは、箱の裏側に指1本が通るほどの穴が上下に二つ空いています。前の蓋を上に引き上げて取り外し、裏の穴から重箱を押し出します

持ち運びには、大判の風呂敷で包みます。そこそこ重いのですが機能的で持ち運びしやすく、よく考えてあります。重箱弁当を食べるたびに感心します。

お祭りで食べる人が増えるのは嬉しいこと

小割り以外に重箱がついているのも優れもの。食べる人が増えてもいいようにご飯類を入れる重箱、おかずを入れる重箱がついています。

今のように電話やメールで簡単に連絡できる時代とは違い、連絡手段が限られていた頃は、お祭りだからと突然に人数が増えては困るでしょう。それを見越してのこの重箱の作りではないかと思うと、豊作祈願のお祭りがお芝居を奉納するだけでは無く、氏子たちの大きな娯楽であり体を休める機会でもあります。

年に一度、この重箱を使ってお弁当を作り、臭い芝居に腹を抱えて笑って、みんなで同じお弁当を食べ、お神酒を飲むことが、意義があるように思えます。

 

昔ながらの舞台と旅役者の芝居

小さな神社に大きな願いを込めて続けてきた行事です。神殿に向き合う農村舞台は奉納芝居のための配置。舞台に向かって壺席の周囲を取り巻く桟敷席。舞台には花道もあり、奈落もあります。

むかし奉納されていた芝居は三番叟に始まり、前狂言、中入り、切り狂言、附け幕があったような気がします。今は、ごくごく簡単な芝居と舞踊ショーの時が多いです。

「中入り~ 中入り~ しばらく中入り~」

舞台の幕がバタバタとひかれ、中入りの声がすると、急にざわざわとして来ます。中入りはお弁当の時間です。それぞれのグループが重箱を囲んで輪になります。取り出した重箱には蓋が被っています。

蓋を取るたのしみ。

今は、撮る楽しみ。

里芋、大根、筍、ゼンマイ、こんにゃくなどの茶色っぽい煮しめは、重箱の下にいれて上置きという彩りの良いものを上に並べます。椎茸、蒲鉾、野菜昆布、卵焼き、絹さや、人参。匂いで食べて、目で食べて、舌で味わう。農村舞台の芝居を観ながら、桟敷席で輪になって食べる十人重箱弁当は格別の味がします。

 

お神酒がでるので肴は欠かせない

薄い重箱の狭いスペースに入る程度でいい。酢ダコ、〆さば。美里町が海から遠いので新鮮な魚は手に入らなかったころの名残だと思われます。塩さばから作る〆さばは、果物を一緒に漬けこむと美味しい。と言いながら、〆さばは作っても食べるのは苦手!

刺身蒟蒻、一文字のぐるぐるなども入れます。刺身こんにゃくも一文字のぐるぐるも酢味噌で食べるので合理的ですね。

私が作る十人重箱弁当

その年によって、桜の花が満開の年もあれば、桜吹雪の年もあります。年によって山菜の種類も違うけれど基本は同じ、旬の山野草料理がメインです。

たけのこの木の芽和え
クレソンのごま和え
こんにゃくの生姜キンピラ
一文字のヌタ
ワラビの酢の物
里いも、大根、椎茸、人参、コンニャクの煮しめ
ゼンマイの煮物
味噌だご
自家製柚子のマーマレードで味付けした唐揚げ
たまご焼き
上置き用のちくわ、厚揚げ、そしてナルト巻き
おにぎり、赤飯のおにぎり

以上のものが、今年4月の十人重箱弁当に入れたものです。

毎年、このお弁当作りを体験して、お芝居を見物して、作ったお弁当を食べる会を催しています。ぜひ一度、美里町に伝わる十人重箱弁当を体験してみてください。


問)美里フットパス協会 
0964-53-9997

<探索人プロフィール>
井澤るり子
熊本県下益城郡美里町在住

地域に残る江戸時代に架けられた石橋をガイドする「石橋ガイド」として活躍。ネイチャーゲームや森林活動などの指導も行っている。地域に残る豊かな文化・景観を歩きながら楽しむ「フットパス」を各地に普及させ、地域の素晴らしさを伝えるインタープリターとして活躍中。

フットパスの全国展開に向け、2016年7月「合同会社フットパス研究所」を起業し代表を務める。日本フットパス協会理事。美里町文化財保護委員会委員長、熊本県文化振興審議会委員など兼務し、地域振興並びに歩く文化の創造と普及に向け多方面で活躍。

この記事を書いたひと

ゲスト探索人

熊本のおいしい星をテーマに、ゲスト探索人が執筆するコラム。地域の特色のある食文化や、伝統の郷土料理、最近ブームになっている一品、おすすめしたい熊本産の食材や加工品、などなど、いろんな観点から熊本の食をご紹介いただきます。どんなゲストが登場するのか、お楽しみに!

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