集落とまつりのなかにある食文化06

熊本県南部にも伝わる鹿児島の端午の節句のお菓子「あくまき」

熊本県南部に残る、祭りや暮らしに根付いたマニアックでユニークな「食」を紹介しているこのコーナー。さて、これまで祭りのことばかり続いていましたが、今回は暮らしの中にある季節の「食」の紹介です。

◆端午の節句に食べるアレ!?
5月といえば端午の節句。現代では5月5日は「こどもの日」と呼ばれ、男の子の成長を祝う日として知られていますよね。
私は現在、水俣市の山間部に住んでいますが、この時期我が家にはご近所さんからとあるお菓子がたくさんやってきます。

それがこちら。

ん…!?何かが竹の皮に包まれている…。
手に取るとずっしりとしていて重量感アリ。触るとプニッとして柔らかい。

さあ、気になる中身は…

じゃーん!

何やら透き通った琥珀色の物体が現れました!
そう、これは『あくまき』と呼ばれる、郷土菓子。

『あく』=『灰汁(アク)』であり、その名の通り、植物の木や葉を燃やした灰でつくられた灰汁に一晩もち米を漬け、それを竹皮で包んで数時間煮たらこのようになるのです。

アクに浸けてあった餅…?えっ!!それ美味しいのっ!?と、初めて見て聞いた人はきっと戸惑うであろう、一見奇妙でミステリアスなこの餅菓子。

◆薩摩の伝統保存菓子『あくまき』
実は、あくまきは鹿児島県の端午の節句に食べる定番のお菓子としてよく知られ、いわば鹿児島の人にとってはソウルフード。

ところで端午の節句といえば『ちまき』ですよね。ちまきも関東と関西では見た目も中身も全く異なっており、東の方では中華ちまき、西の方では笹に包まれた円錐形のお団子ちまきが主流のようで、同じ日本でも様々なちまき文化があって興味深いのですが、鹿児島における『ちまき』はこの『あくまき』のことを指します。

鹿児島女子短期大学の研究ブランディング部会が発行した『鹿児島の食文化読本』によると、あくまきは

“灰汁の持つでんぷんの糊化促進作用と、糊化したでんぷんが固くならない作用により、モチモチとした食感を長く保つことができます。また長時間煮ることやアルカリ性の灰汁による細菌増殖抑制効果により、保存食として優れ、薩摩藩の兵糧食としても使用されたと伝えられています。”

とあります。

 

そんな薩摩の立派な保存食である郷土菓子が、なぜかここ水俣の地でも端午の節句に食べる風習が残っており、よくよく調べてみると、水俣だけでなく、お隣の津奈木町や芦北地域、球磨村や人吉地域でもみなさん当然のように『あくまき』を食べていることが判明しました。県南地域はやはり鹿児島に接しているだけあって、食文化も影響を受けているようです。

だけど私は水俣に住み始めるまで、出身地である八代市(坂本町)であくまきを作っている人も、食べている人も、売ってある店も見たことがありませんでした。どうやら、あくまき文化の北限は八代市と球磨村・芦北町の境くらいにありそうです。

◆熊本県南地域別の『あくまき』事情
熊本県南部地域でも脈々と受け継がれている『あくまき』文化に興味がわき、各地の方にオンラインで聞き取り調査をしてみました。

その結果、水俣や葦北郡では、いわゆる鹿児島で食べられている『あくまき』と同じ製法、食べ方のようでした。葦北郡で調査をしたのは、津奈木町や芦北町の田浦地域、湯浦地域、大野地域の方ですが、ほぼ全域であくまきの文化が根強く残っていることが分かりました。

しかし、球磨村や人吉地域では面白い結果となりました。見た目は全くもって『あくまき』そのものなのですが、竹皮を開いてみると真っ白な餅が現れ、その中にあんこがたっぷり入っており、それを『ちまき』と呼んでこの時期に食べる風習があるとのことでした。(球磨村の神瀬地区・あさぎり町・人吉市など)

(人吉市の村口和彦さまより写真を提供いただきました)

そのうえ、人吉地域の一部では薩摩由来の『あくまき』も作ったり食べたりするそうで、鹿児島県民や水俣・芦北地域の人が、人吉・球磨地域で『ちまき』と言うと、話がかみ合わないことがあるかもしれません。人吉・球磨のみなさんにとって『ちまき』と言えば、一見見た目は『あくまき』と同じ竹の皮に包まれた、だけど中身は餡子入りの白い餅菓子のことを指すのが一般的であるからです。地元ではしっかり使い分けがされていることが分かりました。

 

我らが水俣の久木野地域では、地域おこしの拠点として平成6年からさまざまな取り組みを行っている「愛林館」がこの時期手作りのあくまきを販売します。久木野地域では『あくだご』という呼び方だそうで、この愛林館のあくだごが大人気なのです。

今年は46本製造され、県内外から(遠いところでは新潟県から)の購入があり、即完売。愛林館のあくだごは何と言っても材料にこだわりがあります。灰汁は無肥料・無農薬の大豆の茎や葉を燃やして取った灰からつくった自家製で、もち米もこの地域に古くから伝わる「万石(まんごく)」という品種の香り米を使用。この香り米は炊いた時にポップコーンのような香ばしいかおりが漂うのです。そんなこだわりの材料で手作りされた『あくだご』、美味しくないわけがありません。

ところで、愛林館のスタッフの方から聞いた話によると、久木野地域のとあるおばあちゃんが昔、あんこ入りのあくだごを作っていたそうです。これはまだまだ、久木野地域だけでもリサーチの余地あり、です!!!

ちなみに、愛林館ではリクエストが多ければ6月に再度『あくだご』を製造、販売するかもしれない、とのこと!気になる方は、愛林館に直接お問い合わせ下さい。(最後に問い合わせ先を掲載しています)

 ◆あくまきの食べ方いろいろ
肝心のあくまきの味についてですが、食感はわらび餅に近く、口に入れるとアクの風味がふわ~っとひろがり、なんとも大人の味です。子どもの時は苦手だったけど、大人になったら大好きになった!という方も多いようです。

そしてあくまきは何と言っても、きな粉と黒糖をまぶして食べるのが一番オーソドックスな食べ方のようです。

ほかにも、砂糖醤油、黒蜜、ハチミツ、中にはわさび醤油!と言った人も。アレンジもいろいろで、ネットで調べていると『あくまきパフェ』だとか『あくまきのナゲット』だとか、本当にみなさん、いろんな食べ方をされていました。いや、それも納得…。去年から私も水俣市民になり、このあくまきを本腰入れて食べるようになりましたが、結構味に飽きちゃうんですよね!(笑)飽きちゃうだなんて、あくまきに失礼極まりないですが、食べたことのある方ならきっと分かってくださると思います。あくまきってもち米なのでかなりボリュームがあり、おやつで食べるなら一切れで十分です。そして1本ならまだしも、ご近所さん数軒から一気にどばっと届いたりして、(しかも1軒から3本きたりする)受け取る時の笑顔がひきつってしまうのを必死に隠したりしています。(え、私だけ!?)ワンシーズンでも意外と濃い付き合いになるあくまき、きな粉と黒糖以外にも、いろんな味を試してみたくなるものです。というわけで私もいろんな食べ方に挑戦してみました。

【その①】バニラアイスと食べる

わらび餅のような感覚でバニラアイスを添えて、抹茶パウダーをかけて食べてみました。これがなかなかいけます。抹茶パウダーが合う!とネットで書いている人をみかけたのでマネしてやってみましたが、あくまきのほろ苦さに更に抹茶の苦みがプラスされ、ちょっとクセになります。

【その②】ぜんざいに入れて食べる

あんこ入りのあくまきがあるほどなので、きっとあんことは相性が良いのだろう!ということでぜんざいに入れてみました。写真は少し分かり辛いですが、あくまきとぜんざい、合います。我が家ではあんこと一緒に食べるのがしばらくブームでした。

【その③】衣をつけて揚げて食べる

あくまきの天ぷらや、から揚げが美味しいと噂で聞き、やってみました。結果、揚げ餅のようなものが出来上がり、これがとっても美味しかったのです。個人的には一番ハマりました。おつまみとかにも良いかもしれません。

この他にも、ココナッツシュガーをかけたり、塩で食べたりといろいろ試しましたが、やっぱりなんだかんだ、黒糖きな粉が一番しっくりくるなあ~と思ったところです。って私、今シーズンどれだけあくまきを食べたのでしょうか。ゾッとします。(笑)

あ、ひとつ大事なことを言い忘れていましたが、あくまきを切る時は包丁やナイフを使うのではなく、包んである竹皮を裂いて紐にして、その紐であくまきを縛ってひとつひとつ切りわけます。

(『鹿児島の食文化読本』より)

さてみなさん、端午の節句はもうとっくに終わったと思っていませんか?もちろん、新暦の5月5日は過ぎ去ってしまいましたが、旧暦の端午の節句はまだまだこれからです。今年は、6月25日がその日にあたります。我が家も6月25日に合わせてあくまき作りにチャレンジしてみようかなあ~と企み中です。みなさんも是非、旧暦でも季節の行事を楽しんでみてくださいね。

今後も熊本の主に県南地域に残る、祭りや暮らしに根付いたマニアックでユニークな「食」をご紹介いたします。

 

※愛林館の『あくだご』に関するお問い合わせ先

【愛林館】
住所:水俣市久木野1071-4
電話:0966-69-0485
メール:airinkan@giga.ocn.ne.jp(Facebookページのメッセージでも問い合わせ可能)

この記事を書いたひと

坂本桃子

2019年3月まで八代市坂本町(旧坂本村)に住んでいましたが、現在は水俣市の旧久木野村へ。
ふるさと坂本をこよなく愛し、ケーブルテレビの仕事を通じて知り合った地域のじいちゃんばあちゃんの家に勝手にあがって縁側でお茶をすることが一番幸せを感じるとき。
自称、「集落の奇祭研究家」。明日はあなたのムラのマニアックなお祭りにお邪魔しているかも。現在は、主人が発行している『水俣食べる通信』の広報部長も務めています。

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