集落とまつりのなかにある食文化08

どんなことがあっても守り続ける!坂本町で受け継がれる伝統保存食「かずら豆腐」

熊本県南部に残る、祭りや暮らしに根付いたマニアックでユニークな「食」を紹介するこのコーナー。久しぶりに、私の故郷・坂本町の話題です。今回はとある地域で脈々と受け継がれている伝統保存食をご紹介します。

◆鮎が帰ってくるから「鮎帰(あゆがえり)」

八代市坂本町に、鮎帰(あゆがえり)という地域があります。清流球磨川からは少し離れた山奥の地域で、球磨川支流の油谷川に沿ってひたすら上流へ向かうと辿り着きます。

地域を流れる油谷川はとっても清らかで美しく、住民にとって癒しの川です。

そして実はこの川、夏から秋にかけて鮎がみられるのです。近年は随分少なくなったそうですが、それでも毎年この川に鮎がのぼってくるそうです。「鮎帰」という地名にも納得ですよね。


そんな鮎帰では、この美しい水を活かし、古くから地元で大切にされている伝統の味があります。その名も「かずら豆腐」です。

◆かずらで縛ってもくずれないほど硬い!かずら豆腐

かずら豆腐はもちろんその名のとおり、お豆腐です。ですが、きっとみなさんが想像しているお豆腐とは、ひと味もふた味も異なります。

まず、名前の由来ですが、「かずら」とはつる草の「葛(かずら)」のことで、葛でこのお豆腐を縛ってもくずれないほど硬いため、「かずら豆腐」と呼ばれるようになったようです。お豆腐って、柔らかくて簡単にくずれてしまうイメージですよね。そんなお豆腐の常識を覆す、世にも珍しい硬いお豆腐が「かずら豆腐」なのです。


葛で縛ると言ってもピンとこない方のために、もう少し身近な物で説明をすると、「分厚くて重たい本を上に乗せても大丈夫」なくらいの硬さだと、実際に聞いたことがあります。

今も昔も地域で重宝される伝統保存食

いつから、どうしてこのお豆腐がつくられるようになったのかははっきりしていないようですが、今となっては地域には欠かせない食材で、もちろん普段からも食されていますが、特にお盆やお正月にはなくてはならない存在です。お煮しめ用の豆腐として、重宝されています。数十年前までは、各家庭でかずら豆腐をつくり、自宅の軒下に吊るして保存する風景も見られていたといいます。

さて、肝心の味の方ですが、口にいれると一気に大豆の香りがひろがり、ぎゅっと濃縮された濃厚な大豆そのものの味を楽しめます。かずら豆腐は、固める工程でかなりの重しをかけ、水分を極限まで切ってあるため、冬場は長期保存ができます。そしてこのお豆腐を味噌に漬けた「かずら豆腐の味噌漬け」も近年では地元の特産品となっており、なんともなめらかな口どけで、まるでクリームチーズのような味わいのある贅沢な一品です。

きっと食べるものが少なかった時代、先人たちの知恵によって生まれた保存食だったのではないでしょうか。

◆地域でここだけ!「生活研究グループ鮎帰会」の取り組み

元々は家庭ごとにつくられていたかずら豆腐。実は現在は、このお豆腐をつくっているところが一箇所しかありません。それが、地元鮎帰地域でもう40年近く活動を続けている「生活研究グループ鮎帰会」です。

会員は全員、鮎帰地域のお母さんたちで、中には80歳を超える方もいらっしゃいます。会を創設された初代会長が亡くなった後は、亀田宏子さんが会長として、年配のお母さんたちを引っ張り、精力的に活動されています。

会ではこれまで、食の分野や加工に関するの数多くの賞を受賞し、亀田さんは県認定の「くまもとふるさと食の名人」にも選ばれています。そんな亀田さんが、一番力をいれているのが、このかずら豆腐の製造なのです。

先代の会長が生前、『かずら豆腐だけはつくり続けてほしい』と仰っていたことから、亀田さんもその教えと想いをしっかりと受け継ぎ、週に一度のかずら豆腐の製造に精を出します。

かずら豆腐を製造するためには、重たいものを持ち上げたり、運んだりと、なかなかの重労働です。高齢者には厳しい面もあり、年々高齢化していく会員を心配する声もきかれますが、まだまだみなさん現役です!

◆コロナ、そして豪雨災害を乗り越え…!さかもと復興商店街でも販売中

最後に、そんな鮎帰会のみなさんがつくる、美味しいかずら豆腐が購入できる場所をお知らせします。坂本町内に7月にオープンした「さかもと復興商店街」内の鮎帰会の店舗にて購入可能です。

実は鮎帰会も去年からのコロナウイルス感染拡大の影響を受け、加工所のある施設自体が利用不可となり、製造ができない日々が続きました。そして、更に追い打ちをかけるよう、7月の豪雨災害で坂本町が壊滅的な被害を受け、豆腐の製造どころではない状況でした。それでも翌月の8月末には製造を再開し、またたくさんのかずら豆腐ファンの元へ製品が届けられています。

鮎帰会が他にも開発して商品化している「ばんぺいゆ味噌だれ」も大人気で、揚げ物にも、スティック野菜にも、お料理にもなんでも活躍する素晴らしい商品です。気になる方はこちらもあわせて是非、おためしくださいね!運がよけば、復興商店街で会長の亀田さんにも会えるかも!?

今後も熊本の主に県南地域に残る、暮らしや祭りに根付いたマニアックでユニークな「食」をご紹介いたします。

【生活研究グループ鮎帰会】
住所:八代市坂本町鮎帰ほ1512
電話: 0965-45-3551

【さかもと復興商店街内・生活研究グループ鮎帰会】
営業日:金曜日~日曜日
営業時間:10:00~16:00
場所:道の駅坂本からすぐ近くの仮設店舗商店街となっています

この記事を書いたひと

坂本桃子

2019年3月まで八代市坂本町(旧坂本村)に住んでいましたが、現在は水俣市の旧久木野村へ。
ふるさと坂本をこよなく愛し、ケーブルテレビの仕事を通じて知り合った地域のじいちゃんばあちゃんの家に勝手にあがって縁側でお茶をすることが一番幸せを感じるとき。
自称、「集落の奇祭研究家」。明日はあなたのムラのマニアックなお祭りにお邪魔しているかも。現在は、主人が発行している『水俣食べる通信』の広報部長も務めています。

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