集落とまつりのなかにある食文化04

柿の木に○○を食べさせる!? 芦北町大岩地区の小正月行事

熊本県南部に残る、祭りや暮らしに根付いたマニアックでユニークな「食」を紹介するこのコーナー。今回は、芦北町大岩地区の不思議な小正月(こしょうがつ)行事についてお伝えします。

小正月行事といえば年が明け、正月の終わりにあたる1月15日、または1月15日前後に行われます。現代ではあまり馴染みのない方が多いかもしれませんが、古くから日本ではこの日に五穀豊穣や無病息災などを祈る行事が各家庭で催され、ひとつの節目として大切にされていました。

今回の舞台となる芦北町大岩地区では、この小正月行事を旧暦の1月15日前後に行っています。今年の旧暦小正月は2月8日。翌日が日曜日ということで、2月9日に開催されました。

さて、こちらは大岩地区小正月行事のメイン会場、地区公民館前です。朝8時半にはすでにたくさんの地域の方が準備を開始していました。

お餅をついて、
女性陣が手際よく丸めています。通常のお餅よりも少し小さめ、そして紅白2色あります。
さて、このお餅。一体何に使うのでしょうか?
しばらくするとたくさんの柳が登場しました。そしてみなさん、この柳に先ほどの紅白餅を突き刺し始めました。
しかも、餅だけでなくふかした里芋もあります。
そう、みなさんこうやって柳餅をつくっているのです。この柳餅、かつては各家庭ごとにつくり、家の大黒柱にくくりつけて無病息災・五穀豊穣を祈願していたそうです。現在は地域住民みんなでつくり、公民館と観音堂へ飾ります。
柳餅ができたら、次は『もぐら打ち』を行います。もぐら打ちも豊作を祈る伝統的な習わしとして、九州各地の農村で行われていましたが、現在は残っているところも少ないようです。
一般的には子どもたちが手作りの棒(もぐらんぽと呼ばれたりもします)を持って、家の庭や田畑を思いっきり叩きます。(もぐらを追い払う)
この時に、叩きながらはやし言葉をうたったりするのですが、このはやし言葉が各地で異なっていて、面白いのです。
大岩地区のもぐら打ちのはやし言葉は「もぐらんぽ、もぐらんぽ、もぐらうち、もぐらうち」です。(ちなみに私の故郷、八代市坂本町では「14日のもぐらんぽ、もぐらは山に帰ってけー!」でした。)

大岩地区では子どももすっかりいなくなり、現在は大人も一緒になってもぐら打ちをします。この日は大岩出身のお母さんたちが子どもを連れて里帰りしていたり、大岩地区外からのお子さんの参加もあって、なんとか子どもの姿もみられてホッとしました。もぐらを追い払ってもらった家庭のご年配のお母さんも、元気な子どもたちの姿を見てとっても嬉しそうです。
この日、おそらく一番長寿であろう一人のお父さんと出会いました。お名前は鬼塚一貞さん。御年87歳です。
実はこの鬼塚さんが行政区長をされていた平成14年に小正月行事の復活をされたそうです。これまでずーっと続いていたわけではなく、しばらく途絶えていたものを見事復活された鬼塚さん。鬼塚さんがまだ小さかった頃、当時大岩小学校の同級生は48人もいたそうです。当時の様子を懐かしそうに語ってくださいました。

さて、もぐら打ちが無事に終わったら、いよいよ最後の小正月行事へとうつります。
最後は公民館から少し離れた、とある家庭のお庭まで歩いて移動します。
さあ、ここからが今回のメイン、(あくまでも私の中でです。笑)『柿の木なれなれ』の始まりです!

一本の柿の木を前に、一人のお父さんがナタを持ってきました。そして何やら歌をうたい始めます。
「なーれなれ、ならんばならんば、切って切って切ったおすぞ〜!東の枝にもぶーらぶら、西の枝にもぶーらぶら、なーれなれ」と言いながらなんと、柿の木に傷をつけはじめたのです!!
えー!痛い!痛いよ〜!と思わず叫びそうになりました。それくらい豪快に傷をつけます。するとそこへ別のお父さんが登場しますが、なんと手には山盛りの白いご飯!?
一体何が始まるのだろうと思っていたら、先ほど傷つけた柿の木にそのご飯を塗りたくっているではありませんか〜!
えー!?何、どういうこと?まさか柿の木にご飯を食べさせている!? そう思うと、傷をつけた部分が口のようにみえて奇妙というか、面白いというか…。
この『柿の木なれなれ』、寒い冬に怠けるな!ということで柿の木に傷をつけてご飯を食べさせ、今年の秋に実がしっかりなることを祈願する意味合いがあるそうです。
なんて不思議な習わし…。初めて見た人はこの奇妙な儀式に戸惑ってしまいますよね。

『柿の木なれなれ』のはやし言葉も、大岩地区の場所によって少し異なっているそうで、別のところでは「東の枝にもなーれなれ、西の枝にもなーれなれ、やすきん金○ま(←放送禁止用語)ぶーらぶら」と歌ったりもするそうです。この放送禁止用語版の方が子どもたちにとってはテンションがあがるかもしれませんね。
ちなみに、『やすきん』とは人の名前で、昔この地区にヤスキンさんというお爺ちゃんがいて、いつも○ンタマぶらぶらしていたんだとか(笑)

何はともあれ、不思議で愉快な大岩地区の小正月行事が今年も無事に終了し、最後は公民館に集まって手作りのぜんざいをいただきます。このぜんざいがとっても美味しくて…私は2杯おかわりしました。

準備から行事の実施、そしてこの宴会まで2時間半ほどで終了し、大岩のみなさんの団結力と手際のよさに感動してしまいました。やっぱり、祭りや伝統行事をしっかりと続けていらっしゃる集落は、必ずみなさんまとまりが良く、人も良く、働きものが多いなあという印象です。初めて訪れたヨソモノの怪しい私にもとっても優しくしてくださいました。大岩地区のみなさん、ありがとうございました。

さて、柿の木なれなれでたくさん傷つけられたあの柿の木…本当に実がいっぱいなるのでしょうか?
今年の秋に、また見にいってみることにします。

今後も熊本の主に県南地域に残る、祭りや暮らしに根付いたマニアックでユニークな「食」をご紹介します。

この記事を書いたひと

坂本桃子

2019年3月まで八代市坂本町(旧坂本村)に住んでいましたが、現在は水俣市の旧久木野村へ。
ふるさと坂本をこよなく愛し、ケーブルテレビの仕事を通じて知り合った地域のじいちゃんばあちゃんの家に勝手にあがって縁側でお茶をすることが一番幸せを感じるとき。
自称、「集落の奇祭研究家」。明日はあなたのムラのマニアックなお祭りにお邪魔しているかも。現在は、主人が発行している『水俣食べる通信』の広報部長も務めています。

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