集落とまつりのなかにある食文化02

八代市坂本町百済来地域で受け継がれる『きゅうり祭り』

熊本県南部に残る、祭りや暮らしに根付いた
マニアックでユニークな「食」を紹介するこのコーナー。
今回は、私のふるさと坂本町の百済来(くだらぎ)地域で古くから受け継がれている
『きゅうり祭り』をご紹介します。

 集落の田植えもすっかり終わった6月11日。
舞台は坂本町百済来の小川内(おかわち)地区です。

ここの地区公民館で毎年恒例の行事『きゅうり祭り』が行われるとのことでお邪魔してきました。
と言っても実は私は去年も参加させていただいたので、今年で2回目の参加となります。

このきゅうり祭りがなんとも不思議で…

いや、奇妙で…?

奇妙とか言ったら失礼かもしれませんが、本当に謎だらけの摩訶不思議なお祭りなのです。
一体どのあたりが不思議なのか、これからみなさんにお伝えしたいと思います。

 公民館に到着したら既にきゅうり祭りの準備が整っており、
集落のみなさんが続々と集まっていました。

さて、テーブルの上をのぞいてみると、、、、、
ありました!!

きゅうり、キュウリ、胡瓜…!!!

え!きゅうりしかない…

あ、みょうが饅頭もあった。(ほっ)

みょうが饅頭は八代地域(もっと南の方もあるかもしれませんが)のこの季節の郷土のおやつです。
あんこの入ったお団子をみょうがの葉っぱで巻いて蒸したもの。
みょうがの葉の香りがして、とっても美味しいのです。

…おっと、今回はみょうが饅頭の話は置いといて、
きゅうりの話にもどります。

さて、こちらの器に入ったものは「にんにく味噌」です。
味噌にすりおろしたニンニクと、砂糖を混ぜたもの。
これをきゅうりにつけて食べるのです。

いよいよ始まった、きゅうり祭り。

何をするかというと、みなさん、もうお分かりですね。

そう、ただひたすらに

きゅうりを

食べるのです。

 え~!!それだけかい!とビックリされた方も多いかもしれません。
がしかし、本当にただ、用意されたスライスきゅうりやスティックきゅうりを食べるだけなのです。
去年、初めてこのきゅうり祭りにお邪魔することになった時、
私はとても意気揚々と、きっと何かすごい意味があるにちがいない!
面白いいわれがあるにちがいない!と、「なにか」に期待して参加しました。

しかし、その「なにか」はありませんでした。

私は、集落のみなさんにそれはそれはしつこく聞きまくったのです。

「どうしてきゅうりを食べるのですか!?」

「いつからきゅうりを食べるようになったのですか?」

「川祭りとか河童は関係ありますか!?」

しかし、かえってくる答えは
「わからん」「意味はなか」「昔からしよるだけだけん…」。
え~!本当に~!?ととてもがっかりしていまいましたが、

逆に意味がないのに、やっている本人たちも意味が分からないけど
ずっと途絶えず毎年続いているってすごいことだよなって更に興味がわいてきました。

 この小川内地区も過疎化・高齢化がかなり進んでおり、子どもの姿はみられません。
集落は普段はひっそりとして、道を歩いていてもほとんど人に出会うことがありません。
そんな中でこのような祭りが行われ、ほぼ全世帯の住民が
一堂に集まることはとても貴重な機会なのだと、あるお母さんが教えてくださいました。

「こやん時しかみんなで顔ば合わせんけん。よかたいね。」

その言葉を聞いて、少し私はこのきゅうり祭りの意味を、意味はないのだけれども、
ずっと続いている理由が分かった気がしました。

少しだけ補足情報ですが、以前はこのきゅうり祭り、
近くにある山の神様の前で行っていたようです。

当時は子どももたくさんいたため、土俵をつくって子ども相撲を奉納し、
山の神さまにも鯛と鮎、そして麦の粉を挽いてはったい粉にしたものをお供えしていたそうです。
もう50年くらい前の話で、夕方から行っていたような…と、
まもなく80歳を迎えるお母さんが話してくれました。

子どもがいなくなり、人口も減り、祭りのスタイルは随分と様変わりしましたが、
それでもみなさん、きちんと毎年6月11日に集まり、ただただきゅうりをひたすら食べる。
そんな小川内地区のみなさんの生き方、暮らし方を知ると、
生きていくうえで本当に大事なことって何なんだろうと、いろんなことを考えさせられたのでした。

今後も熊本の主に県南地域に残る、祭りや暮らしに根付いたマニアックでユニークな「食」をご紹介いたします。

この記事を書いたひと

坂本桃子

2019年3月まで八代市坂本町(旧坂本村)に住んでいましたが、現在は水俣市の旧久木野村へ。
ふるさと坂本をこよなく愛し、ケーブルテレビの仕事を通じて知り合った地域のじいちゃんばあちゃんの家に勝手にあがって縁側でお茶をすることが一番幸せを感じるとき。
自称、「集落の奇祭研究家」。明日はあなたのムラのマニアックなお祭りにお邪魔しているかも。現在は、主人が発行している『水俣食べる通信』の広報部長も務めています。

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